第10回「今を生きる教養講演会」を開催しました。
 
 
 平成24年7月6日、本学8号館831教室で福大生ステップアッププログラム 第10回「今を生きる教養講演会」を開催しました。
 

 今回は東京大学大学院教授のロバート・キャンベル氏を講師にお迎えし、『「生きている」と実感できる日のために ― 歴史と自分との接点がどこにあったか、しばらく考えてみよう― 』と題してご講演いただきました。
 始めに、内閣府の調査結果を引用され、現代の20代の若者は、現在の生活に対する満足度は高いのに、「生きている」という実感を持っている人は少ないのではないか、「生きている」と実感するためには何が必要か、歴史を通じて何か見えてくるものがあるのではないかという問題提起をされました。
 そして、キャンベル氏自身の考えとして、「生きている」と実感するのは楽しいと感じている時よりも苦境に立たされた時であり、それを乗り越えた時、あるいは乗り越えようとしている時こそが最も「生きている」と実感できる時ではないかと話されました。
 次に、日本文化における苦楽の思想について、「楽あれば苦あり」ということわざを挙げられ、英語にも「Every cloud has a silver lining」(暗い雨雲にも「銀の裏張り」がある)という類似した表現があるが、欧米では苦楽は二律背反的で、苦の後に楽がやってくるという関係性であり、苦楽が表裏一体の切り離せないものとして存在しているという考え方は日本独特の考え方であるということを話されました。
 その上で、日本人がどのように苦楽を感じ、表現してきたのか、いくつかの文献を挙げながら紹介されました。
 まず、獄中で毎日蟹の絵を描く士族の男性について書かれた明治時代の新聞記事を紹介され、苦しみの中でもその時々の楽しみを見つけることで、日常生活の中の小さな楽しみが明日を生きる糧になるという話をされました。
 また、江戸前期の僧侶である沢庵禅師の言葉を引用して、「寝るほど楽はなし」とはいうものの朝から晩まで寝ていろと言われると「すなわち苦なり」。寝てばかりいる状態が苦と思った瞬間に、「起きるは楽なり」となる。「中を得るときは、即ち是れ真の楽也」というように、「楽」には「上中下」のランクがあり、中位の楽が一番良いと話されたことは非常に興味深いものでした。
 次に、キャンベル氏も好んで読まれているという江戸時代の儒学者広瀬淡窓の漢詩「桂林荘雑詠諸生」が紹介され、苦労の中にも仲間と役割分担をしながら助け合う楽しみを解説されました。
 最後に、「たのしみは」で始まり「時(とき)」で終わる形式で日常生活のささやかな楽しみを52首の和歌で表現している、江戸末期の歌人橘曙覧の「独楽吟」の中の歌をたくさん紹介されました。どれも現代を生きる私たちにとっても共感と親しみを覚える内容で、時代を超えても変わらない楽しみの本質や日本人の感性、生き方について、改めて教えられました。
 講演後、学生を代表して人文学部日本語日本文学科の本田麻美(ホンダ アサミ)さんが感謝の花束を贈りました。会場は学生、教職員に加え市民の方々も多数参加され、約980人がキャンベル氏の話に耳を傾けました。キャンベル氏のご厚意でサイン会も開かれ、盛況のうちに教養講演会を終了しました。

 
立ち見が出るほどの盛況ぶりでした

講演後、花束を受け取るキャンベル氏

出発ぎりぎりまでサインをしていただきました

衛藤学長とともに

「第10回今を生きる教養講演会
(ロバート・キャンベル氏講演会)
ポスター」PDF
 

 
現代人の「楽」は違うところもあると思うけれど、自分が心から安心できる「楽」は昔の人ときっと変わらないのだろうと思いました。私も苦楽を恐れず生きていきたいです。
日常のちょっとしたことに幸せを感じるような毎日を送ることが「今を生きる」につながっていくのではないかと感じました。
    外国から見た日本、自分たちの知らない日本人の感性の素晴らしさを改めて感じました。目の前の苦しみばかりにとらわれがちですが、過去や未来を見据えて周りの小さな楽しみを感じられる人になりたいと思いました。
普段は触れる機会のない文学的な情報を聴き、そこから感じとることが出来たので本当によかったと思います。育った環境は違い、時代も違うけれども「楽しいとき」に共感できるのはなんだかとても素敵だと思いました。
今回の講演会では、普段の講義では考えることのないことが取り上げられていて、苦と楽のことを考えることで、これからのことを更に深く考えていこうと思いました。
ロバート・キャンベル氏が日本の文学を専門としているということはテレビ等を通じて知っていましたが、本当に「温故知新」というか、古きにここまで関心を抱くのを目にして感動しました。それに入りやすい入口の提示が多くてわかりやすかったです。
「生きている」と実感する為に本当にすごくためになりました。考え方次第で苦しいことも楽しいことにつながることを知り、これから「生きている」と実感しながら人生を過ごしていけると思います。
 

第1回
2006年
7月
6日
  小坂 憲次 氏(当時:文部科学大臣) 
「新しい時代を切り拓く君たちへ-人間力の向上にむけて-」
第2回
2006年
11月
24日
  林 望 氏(作家・書誌学者)「知性の磨きかた」
第3回
2007年
7月
4日
  山根 基世 氏(元NHKアナウンス室長)「ことばで『私』を育てる」
第4回
2007年
12月
18日
  金田一 秀穂 氏(国語学者・杏林大学外国語学部教授)「心地よい日本語」
第5回
2008年
6月
3日
  北野 大 氏(化学者・明治大学理工学部教授)「環境問題入門」
第6回
2008年
11月
17日
  北城 恪太郎 氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問)
「これからの社会で求められる人材」
第7回
2009年
5月
25日
  草野 仁 氏(TVキャスター)「いつもチャレンジ精神で」
第8回
2010年
9月
29日
  明石 康 氏(元国連事務次長)「国際社会で働くということ」
第9回 2011年 5月 31日   田部井 淳子 氏 (登山家)
「世界の山々をめざして  ―あきらめずに夢を実現させる―」


今を生きる教養講演会