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「学び」へのステップ 大学から始める『言葉の力』育成プログラム
実践編(6月27日)を実施いたしました。

2015.07.28

 「大学から始める『言葉の力』育成プログラム」、通称「コトチカ」の実践編を、6月27日(土)に、実施いたしました。実践編では、①実際のレポートの書き方、②問いの立て方、の二つを軸に学びました。4月から開講したコトチカもこれで最終回。基礎編で学んだ「ディスカッションのノウハウ」と「レポートのアウトライン」、発展編で学んだ「テキストの読み方」「論理構造の把握の仕方」等の技術を駆使して、テーマについて自ら問いを立てるところから議論を構築してもらいましたが、さて、うまくいったでしょうか。

〔実際のレポートの書き方〕
 まずは「①実際のレポートの書き方」から。実践編では、これまでの基礎編、発展編で扱ったテーマに即して実際にみなさんにレポートを作成してもらいました。ちなみに、今回はレポートをできるだけ客観的に評価するために「ルーブリック」という評価手法を用いています。レポートが、どういう観点から評価されるのか、レポートを書き終えたらぜひルーブリックで自分のレポートをチェックしてみましょう。レポート執筆になじみのない学生にはちょっとピンと来ないかもしれませんが、実はレポートの完成度を高めるためには、第一稿を書き終えてからの見直し作業が重要なのです。自分の議論に穴がないか、説明は分かりやすいか、自分でチェックする作業を通じて、論理的な思考力は鍛えられます。ですから、見直し作業をせずにレポートを提出してしまうのは、自分の成長の機会を逸してしまう、とてももったいないことなのです。たとえて言えば・・・、そうですね、昔の人はマグロを食べるとき、トロの部分を捨てていたそうですが、レポートの見直しをしないのは、それくらいもったいないことなのです(多分・・・)。

〔問いの立て方〕
 実践編ではいくつかの新聞記事からグループごとに一つを選んでもらい、その記事の内容を踏まえて、自分たち自身で問いを立て、それに答える形で議論のアウトラインを構成する、というワークを行ってもらいました。基礎編では、すでに「問い」の部分は用意されていましたが、今回は問いを立てるという作業そのものをグループで行ってもらいました。高校までの勉強では、すでに立てられている問いに答えることが基本になっており、自分で問いを見つける、という経験はあまり行ったことがなかったでしょうから、今回のワークは意外に難しかったはずですよ。以下では、【グループ3】が作った問いを紹介しましょう。

【グループ3】
 このグループは過半数(59%)の人たちが、現代の子どもたちは幸せだと感じている、という内容の記事を扱ってくれました(2014年5月5日日経新聞朝刊14頁)。しかし実はこの記事、よく読むといろいろ不可解です。そもそも、「子どもたちが幸せだと感じますか?」という質問は、子どもたち自身にではなく、大人を対象にたずねています。まず、そこに着目できた注意力と批判的な視点、とてもいいですね。
 さて、記事によると、多くの大人が、「現代の子どもたちは幸せだと感じている」と判断した理由には、「好きなものを食べられる」、「インターネットが普及」、「高等教育を受けられる」、「好きな道に進める」が多く、幸せだと感じていないと判断した理由には、「将来が不安」、「外で遊ぶ機会が少ない」、「インターネットで有害情報」、「受験が厳しく忙しい」があがっています。
 この記事を踏まえて【グループ3】がたてた問いは、「コミュニケーションとは?(世代による認識・定義の違い)」です。レポートのテーマにするにはちょっと大きすぎる問いですが(つまり、この問いに対して回答を与えるためには、膨大な根拠資料が必要になるため、数千字程度のレポートでは十分な答えを与えることが難しいのです)、このグループの秀逸な部分はこの問いに対する補足です。この記事では、大人たちは今の子どものコミュニケーション能力を劣っていると判断しています(「優れている」が24%に対し、「劣っている」が49%)。【グループ3】は、これは大人と子どもの「コミュニケーション」の違いにあるのではないか、と問い立てしているのです。
 【グループ3】は次のように考えています。つまり、インターネット普及前の社会を知る大人たちにとっての「コミュニケーション」と、今の子どもたちにとっての「コミュニケ―ション」は、そもそもその認識や定義が違うのではないか。大人たちによる(ある意味で恣意的な)基準によれば今の子どもたちのコミュニケーション能力が低く見えてしまうが、子どもたちはそれとは別種のコミュニケーション能力を身に着けており、むしろ子供たちの観点からすれば、大人たちの方こそコミュニケーション能力が低いとさえ言えるのではないか。もしそうであるなら、大人による子どもたちへの評価や判断は、かなりずれている恐れがあります。
 この問いに対して、【グループ3】の学生たちはどんな回答を提示できるでしょうか。今回の実践編では、ワークで扱ったのは「問いを立てるまで」のプロセスです。しかし、魅力的な問いを立てることができれば、その問いに導かるように探究心が刺激され、のめりこんで問いを掘り下げていくことができます。その意味で、問いを立てることは、知的探究心を刺激し、探究能力を向上させるために重要な鍵になってくるものです。今回のワークを通じて、問いを立てる重要さと、問いに促されて突き進む面白さを理解してもらえたら、と願っています。

 さて、半期を通じて実施してきたコトチカも、以上で終わりです。言葉は奥が深いものですから、コトチカを何度か受けたくらいで「言葉の力」が簡単に身につくものではありませんが(おっと、最後の最後になって我ながらなんという大胆な発言(笑)!しかしまぁ、どう考えても事実ですから仕方ありませんね)、それでも、これからみなさんが大学生活の中で言葉の力を身につけるためにどんなトレーニングをしていけばいいのか、その方法やルールについては、惜しみなく伝えてきたつもりです。もちろん、それでも悩んだり分からなかったりすることがこれからの学習の中で生じることはあるでしょう。そんなときは、ぜひ気軽に教育サロンを訪ねてみて下さい。私を含めて、いろいろな先生がきっと力になってくれるはずですよ。
 さて、名残惜しくはありますが、みなさんの成長を心より願いつつ、今年のコトチカを終えることとしましょう。では、またいつか。

コトチカ講師:須長一幸

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