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「学び」へのステップ 大学から始める『言葉の力』育成プログラム
発展編②(6月1日)を実施いたしました。

2016.06.29



  平成28年度第二回目のコトチカ(発展編)を実施しました。発展編は、基礎編で学んだグループワークの技法をさらに活用し、テキストを読む、まとめる、発表する、質疑応答する、といった複合的なワークを行うプログラムになっています。

 テキストは、新聞記事を八篇集めたテキスト集のなかから、一人それぞれ二篇ずつえらびます。そして、まず自分が読んだテキスト二篇のうち一篇について、内容をまとめてグループメンバーに発表します。テキストの内容は、①「ワークライフバランスについて」、②「高校のデモ参加の届け出制について」、③「若者とスマホの関係について」、④「少年法について」、⑤「18歳選挙権に関する各国の状況について」、⑥「ぼっち席について」、⑦「さとり世代について」、⑧「九大での入学式について」と多様ですが、実はこれらのテキストはすべて、「若者と社会の関わり」という大きなテーマでつながっています。

 さて、発展編では自分が担当したテキストをグループで発表した後、テキストの内容を根拠資料として使いながら、「選挙権年齢の18歳への引き下げは意味があるか」というテーマでシートを作成します。個人個人でシートを作った基礎編と違い、発展編ではグループで議論しながら一つにまとめる、という作業が必要になるのですが、観点や方向性の異なるさまざまな意見を集約して一つにまとめるのは、実は司会にとってはとても大変です。20分という短時間の中で意見をどう引き出し、どうまとめていくか。基礎編で培った技術を駆使しつつ、メンバー同士で協力的な雰囲気を作らないと、なかなかうまくいかないはずです。

 今回参加してくれたグループは二つと少なくはあったのですが、彼らの議論はどうなったでしょうか。ここでは、1グループが作ってくれたシートについて解説することにします。


※写真は、クリックすると拡大します

 1グループは、選挙権年齢の引き下げについて「意味がある」という肯定的な立場でまとめてくれています。その理由は三つあげられていますが、この三つの根拠はいずれも反論を予想した上で構成された周到なものなのです。ひとつひとつ見て行きましょう。

 まずは根拠1の「少ないが選挙に来る人が増える」です。これは、主張に対して「投票率は年代がさがるにつれて下がっていくのだから、10代の若者に選挙権を与えても有効に権利を行使できないはずだ」という反論を想定した上で、「仮に選挙権を行使する人が少ないとしても、これまでより選挙に行く人が増えることは増える」と述べてこれに応えるものになっています。また、選挙権年齢の引き下げが火付け役になって、20代の興味も高まるだろうという補足も加えています。20代の投票率が10代より低かったら、20代はちょっとかっこわるいですからね。

 根拠の2番目。「教育も底上げされるから、将来的に関心が高まる」。これは、「日本では今はまだ政治に関する教育が不十分なのだから選挙権年齢の引き下げは意味がない」という反論を予想してこれに応えるものです。確かに現時点での国レベルの教育は十分とは言えませんが、選挙権年齢の引き下げによってそうした教育の必要性が認識され、教育レベルが高まっていくことが期待される。そう考えると、仮に現時点での教育レベルが不十分であったとしても、選挙権年齢の引き下げには十分な意味がある、という訳です。将来的には、選挙権年齢の引き下げが日本の投票率の向上や社会参加に関する教育レベルの向上のおおきな転機になった、とあとあと言われるようになる可能性だってありますからね。

 根拠の3番目。「若いうちに場数を踏むことができる(社会影響が少ない)」。これはちょっと分かりにくいですが、実はこの根拠、論理的にかなりよくできています。この根拠は、実は「18歳の若者には十分な政治的なリテラシーがないので、感覚な思い込みなどで軽率な投票行動をとってしまうおそれがあるので危険だ」という反論を予想しているように思えます。そして、その反論の中にある「若者の投票率は高くない」という部分を言わば逆手にとって、「若者の投票率は高くないからこそ、若者たちが仮に知識不足で安直な投票行動にでてしまったとしても、そのミスが社会全体におよぶおそれは高くない。むしろ、社会的影響力が高くない若いうちに投票などの政治参加の経験を積むことで、将来的に彼らが責任を負っていくための素地が身につく」と切り返しているのです。この切り返しは見事ですね!短時間でこれだけ機転の利いた議論が作った発想力と論理的思考力は、なかなかのものです。福大生おそるべしです。

 さて、根拠3を筆頭に、議論全体が極めて論理的説得力のあるレベルの高いものにまとまっています。なにより、根拠が全て予想される反論に対して応答する形になっているのには舌を巻きました。1グループの議論、見事です。

 さて、講評は以上です。今回の発展編で実践してみたように、テキストはただ読むだけでなく、それについて話して、意見交換することで理解が深まったり、あらたな視点を得たりできること請け合いです。ゼミなどの機会では、ぜひ積極的な意見交換を心がけてみてください。
 
コトチカ担当:須長 一幸

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